巨大な野猪の腹から王の印である剣を取り出した邪馬台の少女、台与(トヤ)は亡くなった女王日巫女(ヒミコ)の後継者となるべくその王子である忍穂と形ばかりの夫婦となる。弟の穂日を次期大王に推す一派から逃れるために陰棲していた忍穂はこれを機に台与を女王にするために戦うことを決意する。しかし、台与の身のうちには亡くなった日巫女の魂が宿りその体を乗っ取ろうとしていた。一方、出雲では大王の素戔鳴(スサノオ)の娘、須勢理(スセリ)をさらって妻とした己貴(ナムジ)が出雲の王の座を奪取しようと不思議な力を使いはじめていた。かくして古代王朝は風雲急を告げていく。
邪馬台国伝説と記紀神話を融合させてそこにファンタジーの味つけをしたもの。ファンタスティックな要素は比較的抑えられていて古代史の権謀術数を中心に描いている。邪馬台国と記紀神話にはかなり違いがあり整合性を持たせるのにはかなり無理をしなくてはならない。その点は少々強引ではあるが、かなりうまく料理しているように思う。記紀神話の記述に魏志倭人伝の記述をうまく当てはめたといった方が正確か。
邪馬台国関連のフィクションはいろいろな作家によって書かれているが、卑弥呼ではなく壱与を主人公にもってきている点にも注目したい。ここでは記紀神話に合わせるために「壱与」ではなくわざわざ「台与」説を採用しているが、実質は同じことだろう。そこらあたりに本書のオリジナリティを感じた次第。
とにかくいろいろと工夫をしているのがよくわかる。ただ、記紀神話のアレンジはほんとにいろいろな書き手によってなされているため本書ならではという決め手に欠けるようにも思う。次巻以降でそこらあたりをどう突破していくかに注目したい。あまり記紀にとらわれず資料の少ない邪馬台国に重心をおいて書けば面白いものになるのでないだろうか。
(2001年9月1日読了)