呪術が社会的に普及した社会で、その呪術を使って世界支配を企む男、違法呪的行為を取り締まる呪禁官を目指して養成学校に通う若者たち、呪術の普及のために社会の片隅に追いやられた科学信奉者の三者がそれぞれの立場で活動していく中で関わり合い、激しい戦いを繰り広げる。不死者と噂される蓮見は三つの呪具を用いて天使を呼び出し黙示録の預言を自らの手で成就させようとする。呪禁官養成学校に通う青年ギアは失敗を繰り返しながらも一人前になるために様々な葛藤を乗り越えていく。科学雑誌の元編集長、米澤は自殺を図るが一命をとりとめ機械の体に生まれ変わり呪術に関わるものを破壊する恣意活動を行っている。国立呪禁センターで蓮見が呪術を完成させようとした時、ギアとその友人たちは見学のためにその場に居合わせ、米澤は破壊活動のためにセンターに侵入していた。わずかな力しかもっていない若者たちは、そして呪術を憎む米澤は、蓮見の野望を阻止するために激しい戦いに突入する。
一見するとオカルトと科学の対立を描いた作品のようにも見えるけれど、テーマはそこにはなく全く無関係に見えるものたちがぶつかりあった時に生まれる人間模様を描いたものと私は読んだ。特に若者たちの青春群像などはこれまでの作者の書いてきたものとはひと味違ったスポ根風味のものであり、ホラーファンでなくてもすんなりと作品世界に入り込むことのできる仕掛けともとれる。まさか作者がこういう青春小説タッチのものを書くなどとは想像もしていなかったが、これこそSFからホラーまで様々なタイプの作品を発表してきた作風の幅広さを示すものだろう。そしそれは作者の作家としての実力を示すものでもある。
私が作者特有の匂いをかいだのは、科学信奉者である米澤という人物の屈折ぶりだ。科学の力を信じながらも呪術という現実の力に押し流されていく、目の前にあるものを認めたくないという中年男の頑固さなど、興味深い人物造形がなされている。こういった人物像を冷徹に見すえた作者の筆致に本書の面白さが集約されているように感じる。それに比べると野望の塊である蓮見、青春まっただ中のギアたちは人物造形という点ではやや物足りなく、あまり作者の思い入れが感じられないように思われるのだが。
(2001年9月4日読了)