総理大臣という明治以降の日本政治を引っ張ってきた人々全ての業績を概括し、政治というものの本質に迫ろうという一冊。文字どおりリーダーシップを発揮し日本の顔となった人もいれば、背後に実力者がいて単に看板として立てられたような人もいる。時代の波に乗り名宰相として政治史に名を残した人もいれば、実力はありながら十分にそれを発揮できなった人もいる。どうにもこうにも評価のしようのない人もいる。政治家個人を論じながら政治史そのものをも論じることができるという点で、こういった企画は面白く読むことができるものといっていいだろう。
実際、私はこういった首相列伝が好きで、時代に応じて書かれたものを何冊か読んでいる。一人の著者によって書かれたものもあれば、本書のように複数の書き手が分担したものもある。単独の著者が書いたものはどうしても主観的になりやすいが、その分面白く読める。
本書の場合、書き手によってフォームが違うのが気になった。人物史としていわば短い評伝のように書く人もいれば、首相としての業績のみに絞って書く人もおり、またその首相についてよりも首相在任中に起きた事件や世相を中心に書く人もいる。そういった統一性のなさのため、本書はどちらかというと政治史の研究書というよりも政治読み物という感じに仕上がっているように感じた。編者のビジョンが見えてこないのだ。さに、平成以降の首相についてはまだ評価が定まり切っていないということもあってか切り口が弱い。例えば小渕首相は一般的には「凡人」と称されたせいでその政治家としての凄みは伝わりにくい人物であるが、本書ではそういった一般的なイメージの通りの人物として記述されている。編者は東京新聞の政治記者ということだが、その割にはジャーナリスティックな切り口の鋭さに欠けているように感じた。
一般的な政治史の入門書として読むべき一冊だろう。小泉首相の登場で「総理大臣」という存在が再認識されている時期にこういった入門書的なものが出版されたことには意義はあると思う。ならば新書でもっと手に取りやすいサイズと価格で出してくれた方が読者には親切ではなかったかという気がするのである。
(2001年9月7日読了)