魔界都市新宿で隠然たる勢力を持つ財閥、藍然グループを乗っ取ろうとして当主の藍然竜吾の後妻におさまった謎の女、菊乃。彼女は媚薬を操り竜吾を性奴隷とし、その子どもたちも次々と葬り去ろうとしていた。菊乃とその母、暗の狙いは藍然グループの富だけではない。この野望に関わる暴力事件に巻き込まれたのは新宿の片隅で花屋を営む美貌の若者、秋ふゆはる。彼と、店員である柊子と美也の美人姉妹は藍然家で行われる仮面舞踏会に侵入しようとする。しかし、菊乃たちもまたふゆはる等に対して周到な罠を仕掛ける。謎の調剤師イリアも加わり、人類創成の謎に関係する激しい戦いの火蓋は切られた。戦いの果てにふゆはる等が見たものは……。
〈魔界都市ブルース〉シリーズの主人公、秋せつらのいとことされる新たな主人公による新シリーズ。ただ、この主人公はまだいとこほどの存在感を本書では示し得ていない。調剤師イアの存在も含めてこれからその正体を小出しにしていこうという作者の意図が、かえってキャラクターの存在感まで隠してしまっているという感じである。
また、ストーリーの根幹である人類創成に関係したクライマックスのアイデアは諸星大二郎「妖怪ハンター」のエピソードにもあるものだが、媚薬合戦の性的な戦いがほとんどを占める展開のおかげで未消化に終わっており、作者ならではというほどの展開に至っていないのは残念。できるならば「妖怪ハンター」を越える展開にしなければ同じアイデアをあえて使うだけの意味がないように思うのだが、どうか。ここのところ、作者の新刊はこれまでのものの縮小再生産といった感じになってきているように私には感じられる。執筆ペースを落としてよいから一つの作品にもう少しじっくりと取り組んでほしいのだけれども。
(2001年9月9日読了)