剣豪小説で知られる作者による忍者小説。
上巻では信州上田城を攻める北条軍、徳川軍と真田昌幸率いる猿飛佐助ら忍者たちの戦いを中心に、関ヶ原の戦いの後昌幸、幸村親子が紀州九度山に流されるところまでが描かれる。
ここでの猿飛佐助や霧隠才蔵は修験者の子孫という設定になっていて、そこらあたりに作者の独自性を感じさせる。しかし、彼らの使う忍術は念力にテレパシーとSF的なもので、しかも彼らがそういった力を使える根拠の部分があまり明確に描かれていない。例えば山田風太郎ならばこじつけてでも奇想天外な忍法にそれらしき根拠を与えているのが面白いのだが、それがないためにここでの佐助や才蔵は単なるスーパーマンでしかなく、忍者であるが故の苦悩などとも無縁の能天気な存在である。そこらあたりの書き込みに不満は残る。
また、物語の焦点も真田家という独特の存在を中心にするのか、忍者たちの戦いを中心にするのか絞り切れていない。佐助と才蔵の個性の違いが明確でないのも気になる。
剣豪を描くのは得意な作者も忍者となるとかってが違うのか。大坂ノ陣がメインとなる下巻でどのような展開があるのかで評価も変わるかもしれないが。上巻の段階では期待外れの感が強い。
(2001年10月6日読了)