立川文庫のヒーローたちを柴錬流に昇華させた痛快無比の真田十勇士。
猿飛佐助はなんと武田勝頼の遺児であったというところからして、これが史実の裏面に潜む影の男たちの物語だとわかる。むろん猿飛佐助は実在の人物ではないし、武田勝頼の遺児が生き延びたというのも作者の作りごとである。しかし、作りごとだからこそ面白いのだ。自由な発想でこの物語が紡ぎ出されていることが大事なのだ。だから、霧隠才蔵は山田長政によって送り込まれたシャムの忍者であったり、三好清海入道が石川五右衛門の遺児であったりすると、またやってくれたと快哉を叫ぶことになる。
本書に出てくる人々は上記三人だけではなく百々地三太夫や塚原彦四郎など全て異能の人物たちばかりである。乱世から大平の世に移る過程で不要になっていった人物群なのである。だから、痛快である中にどこか破滅への道に至る寂寥感を漂わせている。彼らはなんでもできるスーパーマンではない。変化する歴史の流れに徒花として乱れ咲くしか生きる道はない。破天荒な中にそういったはかなさを秘めた作者の筆致に私は酔った。
なおかつ、文章にどこか気品がある。テンポよく畳み掛けながらも失われないその品のよさに作者のダンディズムを見る。それがまた心地よいのである。
(2001年10月11日読了)