新シリーズの開幕。
人を食らう鬼が跋扈する世界を舞台に、唯一鬼を倒すことのできる〈鬼童〉真那の活躍を描く。彼と同道するのは鬼に傷つけられて苦しむ人間を安楽のうちに死なせてやる秘薬を使う泰冥。鬼を倒した村でその鬼が運んでいた木の実にくるまれていた少女あけびも途中で道中に加わる。〈鬼童〉はその体内に〈命鬼〉という鬼をすまわせていて、そのために鬼を殺す力が備わっているのだ。とかと、〈命鬼〉を体内にとりこむとその者の命は4年しかもたない。真那は自分の命が尽きる前に全ての鬼を退治しようと決心している。彼の前に〈命鬼〉を体内に飼っていた守音がかつて鬼を退治した村で起こっていた悲惨な出来事とは……。〈海鬼〉に捧げるために旅人を生け贄としている村で真那たちを待ち受けていたものは……。泰冥とあけびにそれぞれ隠されている秘密とは……。
民話的な舞台を設定し、そこでひたすら戦いつづける男の苛酷な運命を描いたファンタジー。鬼という絶対悪を倒すスーパヒーローの話、ではない。むしろ鬼は恐怖を象徴するだけのもので、絶対的な恐怖という状況のもとで人間がどれだけ残酷な存在になれるかということを描いたものといえる。
そういう点で、本書は人間こそが鬼以上に恐ろしい存在であるということを示唆しているように私には感じられた。それを和風異世界ファンタジーという手法で描いているので、寓話としてのわかりやすさがある。もちろん、本書はそんなに単純な物語ではないし、主要な人物のもっている秘密を小出しにすることにより、物語に奥行きを与えることに成功している。
ただ、ヤングアダルト出身の作家にありがちな、登場人物の内面吐露を克明に書いたりするところが本書にも見られる。こういったヒロイックファンタジーは主人公の行動を通じて内面が描かれる方が面白いと思うし、描写をそぎ落とすことにより文章にもよいリズムが生まれると思うのだが。
次巻以降も期待できるシリーズがまた一つ始まった。
(2001年10月13日読了)