8年ぶりに書き下ろされたシリーズ完結編。
聖徳太子の残したといわれる『未来記』をめぐり、神異僧の明恵、平家の残党である悪七兵衛景清、高千穂御先衆の愛寿らが最後の死闘を繰り広げる。
明恵は播州斑鳩寺に残された聖徳太子の地球儀を前に夢見をし、月との間にかける「夢の浮き橋」を仏師の運慶に作らせる。景清は将軍源実朝が作った九頭竜舟に乗り込み、将軍を操る愛寿と再会する。愛寿は聖徳太子がかつて出会ったという〈金人〉を呼び出すことに成功するが……。『未来記』に書かれていた謎とは、そして明恵が見い出したものは……。
本書は明恵という人物を通じて悟りへの道を示したもだろう。悟りといってもそう簡単に誰もがその境地に至ることはできないものであるし、作者にとってもそれを描き切るまでには8年という歳月が必要だったのではないだろうか。
明恵が出会う試練は作者が作家として成熟するためにくぐり抜けてきた試練をかたどったものではないのか。そんな気がするのである。その間、忍者を剣豪を武将を描きながら、作者は悟りというものを描くだけの実力を蓄えてきたとはいえないだろうか。
待望の完結編。8年待った割には意外にあっけない終わり方のような気もするのだが、作者が描き出してきた壮大な物語を貫くテーマが「悟り」であったとすれば、こういう形でケリがつくのは自然な形なのかもしれない。
(2001年10月18日読了)