御子柴里美が起きた時、体は誰かに乗っ取られてしまっていた。自分の体を勝手に使っている奴は男のようだ。自分はただその動きを傍観しているだけ。そして、自分の体を乗っ取ったのは憧れの森川先輩。昨日のバレンタインデーにチョコレートを渡したばっかりなのに、先輩は急死していて自分の体に乗り移ってしまったんだ。学校での噂では先輩は殺されたらしい。そして、先輩は兄嫁のマキって女に会いに行って、里美が犯人だって結論を出してしまった。自分がやったんじゃないって伝えるにはどうしたらどうしたらいいのか。その上、自分の体に先輩が乗り移ったってことがママにばれちゃって……。先輩を殺した犯人は、そして体を乗っ取られた里美はどうなるのか。
人格転位されてしまった側から描くという視点の転換が面白い。さらに、わずか数ページで二転三転する状況には「あれよあれよ」という表現がぴったりくる。そしてラストにただようなんともいえぬ虚無感。人格転移された者の視点で描くという一つのアイデアを使ってここまで物語を引っ張っていってしまう……いや、ミステリのアイデアも含まれているし、人格転位のアイデアもユニークだ。しかしそれらを効果的に演出しているのはやはり最初のアイデアなのだ。いくつかのアイデアを芯になるアイデアで有効的に使っていくというまことにうまい構成なのである。
私が作者の小説を読むのはデビュー作以来2冊目であるが、本書ではその人を食ったような意外性がストレートに書かれていて、その構成のうまさに磨きがかかったように感じた。
ユーモラスな中ににじみ出てくる虚無的な喪失感。こうあっけらかんとしたタッチで書かれると、かえって身震いがする。この作者、やはり一筋縄ではいかない。
(2001年10月27日読了)