読書感想文


聖杯伝説
篠田真由美著
徳間デュアル文庫
2001年10月31日第1刷
定価476円

 辺境の惑星ヴァルカの観光ガイド、ヨギのもとに現れた男はいつもの観光ツアーの客とは違っていた。彼は考古学者が見向きもしない遺跡に興味を持ち、ヨギに案内を請う。その遺跡でヨギは不思議な音を聞いた。その音はヨギの深層に残されていた記憶を引き出そうとするが、それを拒否しテ脳がきしむように痛みを与える。彼が伝え残していた「歌」の秘密を知った客、アーリーンは中央政府の文化部を訪れる。そこでは部長で研究者のティエムが、中央政府の強引な施策で滅びてしまった惑星シンドゥ13の最後の生き残りである老婆の意識にテレパシーで侵入し、消えつつある文化を残そうとしていた。アーリーンが老婆と出会った時、瀕死の老婆は蘇った。彼女の口から語られた「歌」のもつ意味とはなんだったのか。
 本書で作者は文化というものの本質を読み手に問いかけている。それは外部の者が守るべきものではなく、人々の生の営みの中で伝えられるべきものなのだということなのだろう。そして、滅びゆく文化を守るためにはその文化を受け継ぐべく、その後継者も受け継いだ文化の中に生きるもてなければならない、と。
 そのために作者は科学文明と伝承文化を対立するものとして提示した。これについては私も異論はない。か、そう単純に描いてしまってもよいのかという思いもどこかに残る。それは、種としての動物を守るべく設置された動物園の存在意義を問うことに似ているかもしれない。
 滅びた文化は化石として博物館に保存しておくしか方法がないものもある。そして、それを守る外部の人間に、その文化の後継者であることを求めるのは酷というものであろう。文化というものを残していくというのは様々な矛盾をはらんでいて、その矛盾を受け入れなければ仕方がないように思う。本書を読んで、そんなことを考えた。

(2001年10月29日読了)


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