堅物の高校教師を夫に持つ地味な主婦の佐代子は、ペットボトルキャップを求めて入ったコンビニで美男の店員、真柴と出会う。彼は彼女が探していたレアもののキャップの入ったコーラを見つけだしてキープしてくれていた。彼女とボトルキャップ集めを競争していた少年、賢也が行方不明になり、やがて目を潰され血を失った死体となって発見された。ある夜、佐代子はコンビニの前で真柴と出会う。彼は派手な様子の高校生と話していたが、その高校生は夫の勤める学校の生徒で池間といった。その数日後に池間から呼び出された夫は帰ってこない。その代わりに家を訪れたのは池間であった。そして、佐代子は池間に血を吸い取られてしまう。その直後に現れた真柴は池間の目を潰して殺す。彼らはこの地上に7人だけ生息している吸血鬼の一人だったのだ。佐代子は吸血鬼として生きる決断をし、真柴と同棲を始める。吸血鬼の生活を楽しむ佐代子だったが、気がかりがひとつ残っていた。それは、池間に血を吸われて吸血鬼となったはずの夫の行方であった。佐代子は新たな人生をどのように生きていこうとするのか。そして夫の行方は……。
平凡な人生と信じていた、その日常から一転して全く違った人生を歩むことになった女性の心理を、吸血鬼をモチーフにして描き出している。これは、いわば不倫の末に訪れる破局になぞらえることができるだろう。新たな人生を手に入れたと思った瞬間に目の前に突きつけられた現実。題材が現実離れしていればいるほど、その落差は激しい。吸血鬼というテーマを提示され、それをホームドラマ的に料理したところに作者の目のつけどころのよさを感じる。特に吸血鬼という新たな人生を選択した女性が自分という人格全てが変わったかのようにふるまうところなど、従来の吸血鬼とはひと味違った描写で面白い。また、そのパートナーである古いタイプの吸血鬼がそんな彼女に戸惑うあたり、微妙な男女のあやというものを感じさせる。ちょっとした工夫でよくあるテーマが新鮮な味わいを持つようになる、その見本のような作品である。
(2001年10月30日読了)