読書感想文


リバースド・ヘヴン 狼牙めざめる
彩院忍著
角川スニーカー文庫
2001年10月1日第1刷
定価533円

 かつて古代人類が地球を防衛するために〈逆転層〉というエネルギーの層を地球の周囲に張り巡らせた。この層を使い地球の重力とは正反対の方向に作用する重力を自由に操ることができる人々がいた。この勢力を束ねるのは〈逆天の七賢〉と呼ばれる強力な力をもったものである。そのうちの一人「狼王」の神室から「宝刀」の銘を受けた刃也は、その名をもつために敵対勢力から狙われる。その敵は七賢の一人「毒花」。刃也は神室につれられて七賢の一人「教皇」に会う。密かに接触してきた「毒花」レカ・ライから神室が既に脱落者であると告げ、刃也こそが〈逆転層〉に降臨する救世主「未生天王」だと教える。親友三波を裏切り者として処分する神室に対し怒りの念が沸き起こる刃也。彼は戦士の一人柚子とともに〈狼王〉神室に反逆の牙をむく。
 〈逆転層〉というアイデアが軸になるわけだが、これは実際には地球外から攻めてくる敵に対して張り巡らされたものとある。ところが、本書ではその外敵の姿は見えず、〈逆転層〉の力を操る者たちが何のために内部抗争を繰り広げてるのかがわかりにくい。「未生天王」という存在が出現した時に起こるビジョンが見えないので、若者たちの死闘も空回りをしているように思うし、裏切りや駆け引きなども奥行きを感じにくい。
 戦闘シーンはなかな迫力があってよいと思う。しかし、個々のシーンをつなぐブリッジ的なものを省略しているのだろうか、ストーリーが少しわかりにくい。キャラクターの個性を際立たせるのも大事だが、それは展開をしっかりさせた上でのことではないかと思う。
 ユニークなアイデアとキャラクター造形のできる期待の若手だと思う。だからこそ、設定を完全に生かしたストーリーを期待したい。

(2001年11月4日読了)


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