読書感想文


星の国のアリス
田中啓文著
祥伝社文庫
2001年11月10日第1刷
定価381円

 愛する兄に捨てられるように惑星ラミアに行かされることになった16才の少女アリス。彼女の乗る宇宙船〈迦魅羅〉号には酔いどれの船長ゴッパ、薬物中毒で人形フェチの船員リョド、老航宙士のポンポ、自称作家のダスミドラ、高慢な美女ヴィオーン、陰嚢に似た宇宙人ビシ・カ・メリが同乗していた。密航していた浮浪者のバラバが体内の血液を失った死体で発見される。乗客名簿に乗っているのに乗船していないアルカードという人物があのドラキュラのモデル、ブラド公の子孫であったため、殺人犯は吸血鬼ではないかと乗員たちは疑心暗鬼にかられる。そして、第2の殺人が起き、人々の狂気は頂点に向かう。果たして殺人犯は誰か。それは本当に吸血鬼なのか。生き残りをかけた死闘が始まる。
 異常な登場人物たちや粘着的な死体の描写など作者のテイストが存分に詰まってはいるが、そういった装飾を剥ぎ取ると、これは「宇宙船」を舞台に置き換えた孤島テーマの本格ミステリといった趣きの作品なのである。そして本格ミステリらしい設定ながら展開は吸血鬼テーマのホラー小説であり、トリックのキモはSFでしか描き得ないアイデアである。つまり本書は様々なジャンルのクロスオーバー的な作品なのだ。
 そういう意味では本書も作者ならではのサービス精神に満ちあふれたものといえるだろう。どのジャンルのファンが読んでも満足できるレベルのアイデアを盛り込んでいるのだ。と書くとなにかごった煮のような印象を与えてしまうかもしれない。が、本書はそうではない。実にうまくコンパクトにまとまっている。作者の技巧的な面がよく出た佳作である。

(2001年11月8日読了)


目次に戻る

ホームページに戻る