私立探偵のメグは故郷のV村に侵入した若者を探してほしいとその父親から依頼を受ける。V村は吸血鬼の住む自治郡で、自殺志願者や永遠の命を得たいという者たちが続々と侵入してくるので困っているのだ。自分から村を捨てたメグにとっては思い出したくない過去もある。それらを振り切るように故郷に帰ると、そこには自分が探していると思しき若者が殺されたと考えられる事件が起こっていた。吸血鬼に変質していた彼は、普通の人間が入ろうとすると吸血コウモリに襲われる洞窟の墓地で、十字架で串刺しにされて死んでいたのだ。しかし、吸血鬼は十字架を触ることができない。吸血鬼にしか入れない場所で普通の人間が起こしたと思われる殺人事件……。しかも死体は灰になってしまい身元がわからない。メグはこの謎を解くことができるのか。
吸血鬼の村という設定を使い、そこでなければ起こり得ない難事件を扱う。アイデアの勝利といえる。トリックそのものはそれほど凝ったものではなく、それよりも殺されたのは誰か、なぜ殺されたのかというところに力点が置かれている。主人公の探偵は特に個性的とはいえないが、人間社会に同化しようとしている吸血鬼というポジションを与えることにより、特異な状況へ読者を案内する橋渡しをする役目を果たしている。
普通の人間とは隔絶された世界に住む吸血鬼たちがどのようにして現代社会に対応していっているのかというところが興味深い。異端者の作る運命共同体ともいえるその集団のなかでさらに異端である者が生きることの難しさなどがよく描けている。
全体にまとまりがよく、手堅い印象をうけた。マイノリティであるというのはどういうことかをうまく描き出した作品である。
(2001年11月9日読了)