異常気象により人間たちは陸を追われた。空母〈アレクサンドリア〉の使命は、失われつつある人類の文化遺産を保存すること。空母を治める者は学芸員と軍人である。学芸員の長、レーベン師とブキャナン師は、海軍少尉ニコルに地上に残されたモネの名画『睡蓮』を回収するよう命じる。ニコルと同行するのは学芸員、和音。彼らは日本列島の奥多摩地区に残るテラリウムに侵入する。そこには子孫を残すことをあきらめ果実を結ぶことをしなくなった変異植物が繁殖し、食物を失った人間たちは全て死に絶えていた。『睡蓮』を守るのは人間の手によって遺伝子操作され作り出された使役獣のクマのみ。変異植物が〈アレクサンドリア〉に広がるのを恐れたニコルは『睡蓮』の回収を拒否する。変異植物の実態が知られ絵画よりも人間の命を重んじる軍人や民間人が学芸員たちに叛乱を起こそうとするが、事前にそれを察知した学芸員たちは軍人たちを殺戮し、文化遺産の保護という彼らの目的を完遂しようとする。ニコルもまた学芸員の襲撃をうけ、大怪我をする。しかし、ニコルは『睡蓮』を質に〈アレクサンドリア〉からの亡命者を許可することを二人の師に要求する。学芸員たちとニコルたちの相反する主張はどのような形で決着するのか……。
本書は、人間が生きていく意味を問うものである。定められた目的を完遂することを自分のアイデンティティとする者と、人類という種の存続を生きる目的とする者の対立点は、つまりはそれぞれが自分の生命の価値をどこに置くかの違いだけである。その二項対立を描くことにより、「生きる」ことに執着する人間の悲しみのようなものを描こうとしているのではないだろうか。その着想の面白さやアクションの書き込みなどは作者の実力を感じさせるのに十分なものがある。
ただ、残念なことに本書ではその悲しみが行間からにじみ出るところまで達していないように思う。それは、異常気象で不毛の地となった陸地の描写などに切実な何かが欠けているからであるように思われる。切迫したところがもう少し描写されていれば、必死になって生きようとする者の哀れさや愚かさが感じとれたのではないかと思う。
とはいえ、こういった題材で物語を作る作者の意欲は十分に感じ取れるし、どんどんと作品を書き続けることにより、深みのあるものを書けるようになるだろうという予感がする。このまままっすぐ成長してほしいと思う。
(2001年11月16日読了)