読書感想文


クラシック名盤ほめ殺し
鈴木淳史著
洋泉社新書
2000年6月21日第1刷
定価680円

 クラシック評論家が必ず「名盤」として推薦する演奏から個性が強く「通好み」として知られる演奏まで、いろいろなCDを俎上に乗せて叩き斬る痛快クラシック評論。
 「悪魔」と「天使」が会話をしてその演奏に対する紋切り型のほめことばをくそみそにやっつけたあと、わざとその演奏のおかしなところを指摘してほめちぎるという、クラシック音楽への愛情に満ち満ちた評論である。その会話は多分に「爆笑問題」を意識しているように思われる。もっとも、必ずしも「ほめ殺し」が的確に機能しているわけではない。けなしているように見えて実は本当に推薦しているものもあり、それらに対する舌鋒は幾分ゆるみがちである。
 一般に「名盤」といわれるものが本当に「名盤」なのかを検証しなおすという試みなわけで、確かにそれは成功しているといえるし、著者のクラシックへの屈折した愛情表現であることもよくわかる。それならば、あまり知られていない演奏についてはページをさく必要はなかったのではないかと思う。誰も「名盤」といわないCDがまぎれこんでいると「ああこれは著者が本当に薦めたい演奏なのだな」と一目瞭然になってしまうのだ。これは得策ではなかろう。
 現在のクラシック音楽が(日本では)一部の好事家の愛玩物になっているという実態を把握した上で、その「クラシック・オタク」に対する批判にもなっている。そうでなければ現在の日本ではクラシック評論はなりたたないということを屈折した書き方で示した興味深い一冊だ。むろん著者も「クラシック・オタク」の一人なわけで、それをちゃんと自覚したうえで本書を書いていることはいうまでもないだろう。

(2001年11月18日読了)


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