「日本書紀」は律令国家が確立される過程で書かれた書物である。したがって、まだ律令がととのえられる以前の時代のできごとであっても、律令国家の正当性を主張するためにはそのような時代にも律令にのっとった政治が行われていたかのような記述を意識的にしてきた。これが本書をつらぬくひとつの方針である。
いわゆる「大化の改新」のきっかけとなった蘇我入鹿暗殺事件の首謀者は中大兄皇子ではなく軽皇子であったことの傍証や、「壬申の乱」における大海人皇子の皇位継承の正当性への疑義など、著者は「日本書紀」を読みなおしつつこれまでの定説に対して批判をくわえていく。それは著者の考え方に一貫性があるためかなりの説得力で読み手に迫ってくる。
もっとも、恣意的な歴史解釈を批判する項では、著者の「日本書紀」の読み方もまた恣意的になってしまっていたりということもあり、そのまま丸呑みするわけにはいかないけれども。それでもこれまでの古代史に対するとらえかたについて刺激をあたえてくれていることは間違いない。
ただ、本書はほとんどが「歴史読本」などの歴史ファン向けの雑誌に掲載されたもので、一冊の本として読むにはテーマが広がりすぎているし、ある程度古代史を知っていないとわかりにくい箇所も多い。
古代史ファンだがトンデモ本は読みたくないし、しかし定説をくりかえしたものにもあきたという人には最適かも。
(2001年11月21日読了)