読書感想文


夜陰譚
菅浩江著
光文社
2001年10月25日第1刷
定価1600円

 ホラー・アンソロジーなどに発表されたものを9篇収録した短編集。
 変身願望を持つものが深夜にある電柱に傷をつけることによって望みの材質のものに変身していく「夜陰譚」。ドメスティック・ヴァイオレンスに傷つく女性を取材するノンフィクション作家が見た人の心の深層を描く「つぐない」。姉に気を遣いながら生きているコンプレックスの塊のような女性が思い描く幻想の世界の恐怖を描いた「蟷螂の月」。リゾート地で知り合った男性からもらった人魚のうろこの中にすむ人魚たちから理想の自分になれるようにアドバイスされる女性の話、「贈り物」。和服に秘められた秘密の力を描く「和服継承」。職場の同僚が生き生きと変わっていく姿と自分が地味になっていく姿を、手の白さを軸に見つめていく「白い手」。日本舞踊の家元に影で仕える老女の独白も哀しい「桜湯道成寺」。部下を叱咤する女性起業家が見た自分の真実の姿と理想の姿の落差を描く「雪音」。そして、醜い女性たちが憩う温泉の中での独白「美人の湯」。
 いずれも「醜さ」をテーマにとりながら、真の美とはなにかを問いかける、辛く切ない物語ばかり。「醜い」ものがあるから「美しい」ものも存在する。そういった相対的な視線から生み出された物語だと思うのだが、作者はあえて「醜さ」を強調する。そこに「美しさ」のはかなさが感じとれる。「醜さ」故に堕ちていく者のその「醜さ」に正面から向き合う。だから、そこに現れた冷たい心証風景になんともいえない切なさを感じるのである。
 人はなぜ「美」を追い求めるのだろうか。その答えを逆説的に提示した作品集といえまいか。その答えは読み手の心をわしづかみにして離さない。

(2001年11月24日読了)


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