人間は種としての限界をむかえ、感情を失いつつあった。〈悲哀〉〈憎悪〉〈愛〉〈狂気〉の4つの感情を司る青銅のロボットが世界各地にすえられ、集合的無意識を支える偶像として機能していた。人間が人間らしさを取り戻すため、4人の男女がそれぞれの方法でこれらの偶像を倒そうとする。彼らに偶像を倒す指令を出し、そして最後にたどりつく場所として顔の半分をゴムマスクで隠した男が伝えたのは、アマゾンにある組織〈デ・ゼッサント〉。4つの偶像の意味するものは何か。そして〈デ・ゼッサント〉の真の目的は……。
ユング心理学をアイデアの核として、人が人であるための、極限での戦いを連作の形で提示し、そして結末に一気に収斂させていく。
ここでは「シンボル」が効果的に使われ、「集合無意識」の概念を小説の形で描ききる。およそ20年ぶりに再読したのだが、その巧みさには今さらながらに舌をまいた。もちろん、今だからこそ感じる弱点もある。最初に読んだ時には気がつかなかったことも多い。たとえば主人公たちがなぜそのような状況におかれられなければならなかったのか、4つのエピソードを1つにつなぐべき終章ではその理由づけが十分になされているとはいえないところなどに構成の弱さを感じさせる。
が、ユング心理学という素材をストーリー展開にうまく生かし、デビュー以来追求し続けている「神」と関連づけていて、地球のそして人類全体の精神分析という壮大な実験を成功させていることは確かだ。そういう意味では本書は「神」と「心理学」を小説という形でまとめあげた希有な一冊といえるだろう。
(2001年12月16日読了)