SFの歴史。SFと科学・哲学・宗教の関連性。SF小説の書き方。映画やアニメ、翻訳、研究の方法論。SF内の各ジャンルについての解説。作家クラブ員が選んだ名作SF20編に対する作家の思い。そして作家たちのSF観。SFのさまざまな要素が盛りこまれた優れたガイドブックである。
そう、ガイドブックなのである。入門書ではない。SFの面白さがわかるSFファンにとってはこれほど面白い本はないだろう。しかし、SFらしきものに接しはじめたところの若いヤングアダルト小説読者にとってはどうだろうか。
少子化、活字離れ、出版不況、SF大会参加者の平均年齢の高齢化などなど、SFをとりまく環境は厳しいままだというのが私の実感である。かろうじて、それをよくわかっている一部の熱心な編集者によってカバーされており、優れたSFがなんとか出版されるようになってきたというのが現状だと思っている。本書がそういった現状に即しているかというと、私には疑わしい。
20年くらい前と同じような形でSFを読み始める読者が多いというのなら、本書は入門書たりえるだろう。ところが、現在の問題はヤングアダルト小説の読者の目をどうにかしてSFに向けなければならないというところにあるのではないだろうか。そう考えると、本書の編集委員の方たちはそちらにはおそらく目が向いてないのではないかという気がしてならない。
本書には「SF用語辞典」や「必読書リスト」のたぐいがない。SFについて右も左もわからない読者にとっては、「SFの創り方」よりもそちらの方が必要なのではないだろうか。入門書というのはそうしたものだという観点が欠如しているといえば言い過ぎか。
だから、本書はSFファンにとっては優れたガイドブックであっても、SF初心者にとっては不親切な解説書であるように思う。パソコンのマニュアルが専門的すぎて初心者にはお手上げであるように。だから本書のタイトルは「SF入門」ではなく「SFガイドブック」であるべきだろう。もしそういうタイトルの本であれば、私は手放しでほめたいのである。しかし、これが「SF入門」を冠している以上、私は批判せずにはいられないのである。編集委員の意図や意気込みは、私の考える方向を向いておらず、SFの未来に対する危機感を感じさせないものなのは、非常に残念である。
たとえばメディアワークスから「電撃文庫」の読者向けに書かれた「SF入門」を出すとか、徳間書店から「アニメージュ」の読者向けに書かれた「SF入門」を出すなどすべきであろう。それが時代に即した「SF入門」のあり方だと私は思っているのである。
(2001年12月28日読了)