読書感想文


吹け、南の風 I 星戦の熾天使(セラフィム)
秋山完著
朝日ソノラマ文庫
2001年12月30日第1刷
定価476円

 銀河連邦は、一見合法的に周辺諸国を併呑し、その勢力を広げていた。しかし、それに抵抗する勢力もあった。トランクィル廃帝政体もそのひとつで、海賊船をよそおった襲撃艦をしたて、連邦に属する商船などを襲っていた。その〈星海艦隊〉の広報担当ママ・ホッパーは、自分の子どもと犯罪歴のある子どもたちを乗員にした襲撃艦〈フリーゲンデ〉を海賊とは別の新たな任務につけようとしていた。そして、演習と称して連邦の一員であるムエルト帝国との国境に艦隊を派遣する。これに対し、帝国も迎撃艦隊を派遣、一触即発の状態が訪れる。連邦大統領の第三息女ジルーネは十四歳の美少女だが、大将の位で第七艦隊を率いる。彼女はその可憐な容貌からは想像もできない秘策を胸に、戦闘を開始しようとしていた。ジルーネの秘策とは。ママ・ホッパーのもくろみは。健忘症の艦長コムカタ率いる〈フリーゲンデ〉の役割は……。いま、〈シリー・ウォーズ〉の火蓋が切られる。
 作者が展開する宇宙史の一環をなす、〈シリー・ウォーズ〉の先史が描かれる。雄大な構想のもとにはじまったシリーズだけに、その設定や登場人物の紹介、特に亜空間航法に関する解説や艦隊のスペックなどの解説にかなりのページがさかれ、物語が動き出すのは後半になってからである。そういう意味では、前半は世界設定の説明そのものが楽しいと思える読み手ならともかく、ストーリー展開の妙にひたりたい読み手にはちょっときついだろう。
 作者は愚直にこの対策に取り組んでいるといえる。作品を楽しんでもらうにはその世界設定を理解してもらわなければならないと考えているようである。しか、読み手はその愚直さを必ずしも愛してくれるかどうか。前半と後半の展開のさせ方のバランスの悪さを考えると、かなり損をしているように思う。大河ドラマ全体の構成からいけばこれでもよいのだろうが、1冊1冊が勝負の現在の出版状況を考えると、もう少しストーリー展開優先の構成にした方がよいように感じた。
 物語自体はかなり面白くなりそうな感触がある。特に邪悪なお嬢様、ジルーネの存在感が際立っている。本巻後半の調子で次巻以降はぐいぐいとストーリーを進めていってほしいものだ。

(2001年12月30日読了)


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