出版社の編集者である夫、萩原祐介が自殺し、妻の桐子は精神的に参ってしまう。古文書補習の講座に通う彼女は、祖父から受け継いだ文書である「宿命城殺人事件」の手記を譲ってほしいという申し出を受けるが、それを断わりその手記を読み始める。その文書は善知鳥良一という人物が書き残したもので、南京落城直後の満洲国を舞台にした連続殺人事件の真相を探るものであった。善知鳥良一は満洲国に建国神社を建築する際に奉納するオペラ「魔笛」の演出助手であったが、満洲映画がロケーションをする〈宿命城〉で連続殺人事件に巻き込まれたのだ。桐子は「宿命城殺人事件」に関わる女優、朱月華は量子力学によって生じた並行世界における自分であると確信する。しかし、彼女をねらう何者かはその近くに迫ってきていたのである。「宿命城殺人事件」と現代の「萩原祐介自殺事件」を結ぶ人物とは何者なのか。歴史のすべてを記憶する〈検閲図書館〉と呼ばれる黙忌一郎が事件解明に動き出した。
戦時中の歴史の暗部を解き明かしていくミステリ大作。過去の歴史と現在は無関係のようで実は綿密につながっているのだというテーマをここに感じた。そのために作者は密室トリックの小技から歴史改変的な仕掛け、そしてSF的な量子力学のアイデアまで投入し、それらを緻密に組み合わせ、壮大な迷宮を築き上げている。
オペラ「魔笛」にこめられたメッセージが有効に使われているというだけではなく、すべての登場人物がミステリという名のオペラでそれぞれのアリアを、また二重唱を奏でる。まさしくそのタイトル『ミステリ・オペラ』にふさわしい。
探偵役の黙忌一郎は作者の分身かもしれない。歴史という物語に登場するすべての人物を記憶にとどめておこうというこの探偵は、作者が本書に書き込んだすべてに魂をこめているということを象徴しているかのようだ。
読むのに時間はかかったが、それだけ読後に感じた物語の大きさは格別であった。
(2002年1月1日読了)