著者は浅草演芸ホールの会長。父親松倉宇七が経営していた浅草フランス座、浅草ロック座、新宿フランス座などのストリップ劇場の推移を語り、そこで芸を磨いた芸人さんたちの思い出を記す。さらにフランス座閉館後は演芸ホールとして浅草の火を守ってきた過程を綴っている。
浅草フランス座については、特にその文芸部員であった井上ひさしなどによる著作が残っているが、それらを引用しながら、自分の記憶をつけ加えていくという書き方をしている。
かつての東京の芸人さんがどのようにして力をつけてきたのかがよくわかり、また芸人気質や、昔の踊り子さんたちの生活などが情感たっぷりに活写されているなど、面白い読み物に仕上がっている。ただ、例えば上演の品目や年表などといった資料的なものはついていないので、資料的な価値という点ではやや物足りない。それでも浅草六区に活気があったころの様子を当事者が描いた貴重な証言であることには違いない。
著者の記憶を補強するために他の著書からの引用がかなり入っているが、これが気になった。確かに証言は多い方がよいが、できれば引用ではなく芸人さんたちの生の声を紹介してほしかった。
著者の演芸に対する愛着、そして浅草という町に対する愛情がひしひしと伝わってくる一冊である。
(2002年1月2日読了)