デザインスタジオを閉じることになった鹿島は、雨の夜に車で少女をひっかけてしまう。その少女は昏睡状態のまま、目をさまさない。旧友の医師、須藤のもとにその少女を運びこんだ鹿島であったが、須藤が行方不明になりその別れた妻の聡子が死体となって発見されるという事件に否応もなく巻きこまれていく。昏睡する少女もまた行方不明になるが、須藤と少女の行方を探る鹿島の前に現れたのは若い総会屋の峰、香水商の弥生である。彼らは年をとらない人間……吸血鬼の秘密を追っていた。そして、須藤の失踪と昏睡する少女の行方不明がそれに関係しているという。鹿島は二人と協力することにし、自衛隊の施設があるという埋め立て島に潜入する。埋め立て島で囚われの身となった鹿島が知った驚くべき吸血鬼の秘密とは。そして須藤と少女の行方は……。
作者の第2長篇。吸血鬼の秘密を進化論の流れで解明するとともに、種としての人類の運命というものにあらがう落伍者と目される男の孤独な戦いを描く。ここでも作者は強大な力の前に無力とは知りながらも挑みつづける人物を主役にしている。作者が学生時代に抱いたと思われる虚無感が色濃く反映されているのだ。
しかし、それがSFとして作品化された時、その虚無感は人類全体が抱える宿命として現れてくる。そこに山田作品の魅力があるといえよう。しかも、サスペンスに満ちたドラマとして読者をひきつけていく。本書もまた第一級のエンターテインメントであり、SF史に残る傑作の一つといって差し支えないだろう。
本書は雑誌掲載時には『流氷民族』のタイトルであったが、単行本化に際して『氷河民族』と改められた。現在は、もとの『流氷民族』のタイトルでハルキ文庫に収められている。『氷河民族』の語感がいいだけに、そのままにしておいてほしかったと思うのだが。書店で探す際はお間違えのないように。
(2002年1月12日読了)