芥川賞作家による異世界ファンタジー。
砂の村に生まれたシェプシは、神の領域である砂漠に心ひかれている。シェプシの世界では、子どもは性が決定しておらず、真実の恋の相手にめぐりあった時、はじめて守る性と生む性のどちらかになる。7才まで生みの親のもとで育ったのち、子どもたちは真の親となる運命の親のもとに詩人によって連れられていく。シェプシは書記の町に連れられていく途中で砂漠に立ち入り、そこでこの世界を秩序づけた最初の書記の子孫に出会うが、彼らは宇宙からやってきた者たちの末裔であった。宇宙船を復活させて祖先の旅立った星に帰ろうとした砂漠の民は、しかし離陸時に事故ですべて死んでしまった。そして、シェプシが寄り道をして期日までに書記の町につかなかったため、詩人はその責任を負って死んでしまっていた。シェプシは書記の町で神の伝説の真相を知る。シェプシが知った真相とは。詩人を殺したという後悔にとらわれたシェプシのとるべき道は……。
アイデアの中核にSF的なものをもってきているが、展開や構成はファンタジーそのものである。本書で注目すべきはやはり子どもは「真実の恋」に出会うまで性が決定していないという点であろう。男でも女でもない存在を設定することにより、人間の生き方というものの意味、そして性差というものの意味を問いかけている。
これはファンタジーという枠組みであるからこそできることであろう。現実にはない存在を設定することにより、現実のかかえている問題を浮き彫りにすることができる。その世界構築の巧みさや主人公の成長物語という展開がそれをさらに強調する。また神により生みの親のもとから育ての親のもとに移され、その親の住む村の稼業につくという設定は、家族というものの意味を問うものになっている。
私はファンタジーはどちらかというと苦手ではあるが、こういった世界構築のうまさとテーマ性の強さに、本書の面白さを感じた。
(2002年1月19日読了)