「月の影 影の海 下」に続くシリーズ第2弾で、通巻第3巻目。
空位の続いていた戴国の国王を決めるべき麒麟は、蓬山の捨身木から産まれるはずであったが、〈蝕〉のために蓬莱にわたってしまう。なんとか探し出せたのは10年後。その麒麟である泰麒は、蓬莱の人間として育ったため、麒麟が収得すべき能力を一切もたないまま新しい戴王を決めなければならない。自分の麒麟としての能力のなさを恥じる泰麒だが、雁国の麒麟、景麒からさまざまな知識を与えられる。やがて王を選ぶ時期がやってきたが、泰麒は不安をかかえたままその日を迎える……。
シリーズ初期のエピソードである。「月の影
影の海」は現代の日本から雁国の王として連れてこられた少女の成長物語であったが、本書は異郷になじもうとする少年の自己を確立する過程を描こうとしているようである。どちらかというと舞台となる世界の設定を、その世界に関する知識のない少年が学ぶのと同時に読者に解説するといった印象を受けた。
前巻を読んでからかなり長い間続きである本巻を読んでいなかったのだが、今回必要に迫られて読むことになった。成長物語としてかなり読みごたえのあった前巻に比べると、かなりあっさりした印象を受ける。主人公が常に受け身であるあたりがその理由かもしれない。
下巻で泰麒がどのような変化を見せるかに期待したい。
(2002年1月22日読了)