読書感想文


ジェニーの肖像
ロバート・ネイサン著
井上一夫訳
ハヤカワ文庫NV
1975年3月31日第1刷
1995年7月15日第10刷
定価408円

 売れない画家、イーベンは冬の公園で石蹴りをしている少女に出会う。彼女の名はジェニー。彼はその少女の姿をスケッチし、その絵は画商に気に入られ、思ったよりも高く売れる。しばらくして彼がジェニーと再会した時、彼女はわずかの間に一気に成長していた。彼女をモデルに描いた絵はさらに高く評価される。彼女の素性を探ったイーベンは、彼女が過去からやってきた少女だということを知る。出会うたびに魅力的になっていくジェニー。彼は彼女のことを愛しはじめていることに気がつく。そして、彼女の時間と彼の時間が一致する日がやってくる。二人は永遠の愛を誓いあうことができるのだろうか。
 時間を超越した少女というモチーフの古典的作品。20年ぶりくらいの再読である。その当時感じたリリカルな切なさを、今回は感じることができなくなっている。それは自分が年をとってしまったということなのだろうか。女性に対するたわいない幻想をもたなくなってしまったからであろうか。
 ファンタジーとしては、物語に起伏がなく物足りなさが先にたつ。主人公の画家の性格にもいらいらしてしまう。そういう意味では、本書はSFやファンタジーの読み方ではもう評価できないものなのかもしれず、文学作品として登場人物の心理をどうこうというような読み方をすべきものなのかもしれない。
 どうも中年のおっさんが少女に抱く幻想というのはろくなものではない、というのが今回読み返しての感想である。

(2002年1月22日読了)


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