読書感想文


UMAハンター馬子 1 湖の秘密
田中啓文著
学研M文庫
2002年1月18日第1刷
定価680円

 「e−NOVELS」掲載の連作を文庫化した、シリーズ第1弾。電子出版を印刷媒体で刊行するという珍しいケースで、今後はこういう企画が増えてくるものと思われる。
 蘇我家馬子は伝統的なおんびき祭文を現在に伝える唯一の上方芸人である。彼女の芸に感動した若い弟子のイルカと二人で、地方の辺鄙な場所に呼ばれては旅を続けている。馬子は自分勝手で強欲であつかましく「大阪のおばはん」そのものを体現した性格で、イルカはいつも師匠に困らされながらも芸を引き継ごうとしている健気な少女だ。馬子師弟のいくところ、常にUMA……未確認動物に遭遇し、その謎を解く。彼女はUMAには興味がなく、不老不死に関する噂のあるところを選んで仕事を受けるのである。そこに必ずあらわれるのは財閥の御曹子、山野千太郎。彼もまた不老不死の謎を追いかけているのである。龍鳴湖に出現する恐竜リュッシー出現の騒動に巻きこまれる「湖の秘密」。ツチノコの棲息するといわれる山で怪事件に遭遇する「魔の山へ飛べ」。不老不死と噂される老婆を探してやってきた村でキツネに襲撃される「あなたはだあれ?」。以上3篇いずれも土着的な神話や伝説をもとにUMAの秘密を解明しながら珍騒動を繰り広げる師弟の姿が描かれる。
 蘇我家馬子とイルカは飛鳥時代の蘇我馬子と入鹿をもじったものだが、蘇我家と書いて「そがのや」と読ませて、上方喜劇の名門の亭号を思わせ、ついにやりとしてしまう。主人公馬子の人物造形がいい。かなりデフォルメされているが、こういうおばはんは、実在する。そして、イルカのようにこういうおばはんに否応もなくふりまわされる人間というのも、実在する。このキャラクターができた時点で、勝ったようなものである。
 もちろん、UMAに関する確かな知識や考証、小気味よいストーリー展開など読ませどころは多い。UMAという意外と小説の題材になっていない素材を伝奇的に料理しているという目のつけどころがよいのである。伝統芸能、伝奇、謎の生物と作者の趣味をはっきりと打ち出した遊び心に満ちた楽しいシリーズの開始である。それぞれの短編のタイトルにもその趣味と遊び心が現れている。わからない人は調べてみよう。田中さん、そこまでやりますかとあっけにとられることは請け合いであります。ほんまにそこまでやりますか。

(2002年2月7日読了)


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