読書感想文


立川談志遺言大全集1書いた落語傑作選一
立川談志著
講談社
2002年1月30日第1刷
定価3200円

 かつて『立川談志独り会』として出版されていた落語集に演目を追加し、談志自身による作品解説を加筆したもので、談志落語の決定版ともいうべき内容の全集である。
 本書に収録された演目は、「ガマの油」「やかん」「紺屋高尾」「風呂敷」「狸賽」「ろくろっ首」「白井権八」「竈幽霊」「猪買い」「夢金」「明烏」「短命」の12本。
 落語ファンならご存知の通り、著者は落語界きっての理屈屋である。理論家、といいたいところだけれど、本書に付されている解説を読んでみても著者が感性の人であることはまちがいない。その感性に理屈をつけるから妙に小難しいことをいっているみたいに感じられてしまうのだ。よって、談志は理屈屋であるという所以。
 もっとも、ここに収められたもので実演を聞いてみたくなるものも多々ある。「やかん」などはその理屈っぽいところがうまく生きた例だと思うし、「短命」あたり理屈をこねくりまわしていくうちに不思議な話に仕上がっていそうだ。
 実演はただ一度だけしか聞いていない私であるから、談志落語のよき理解者であるわけではない。が、その一度だけの実演で感じたのは、ツボにはまるとこれほど凄みのある噺家はいないだろうということ。理屈をこねくりまわして作り替えた解釈を、その鋭い感性で演じることができるという点では、比類ない噺家ではあろう。
 そのエッセンスがつまった全集の刊行ということで、今後も楽しみである。
 ただし、付録のCDはいらない。本に書いている解説を繰返してしゃべっているだけだから。それならば本書に収められた演目を一つ二つ収録してくれた方がいい。もっとも、熱狂的な談志ファンは、落語よりもぼそぼそと文句をいっているのを聞くのが好きなのかもしれないけれど。

(2002年2月9日読了)


目次に戻る

ホームページに戻る