平安時代から昭和初期までを舞台にした耽美小説を集めた短編集。
表題作「おしろい蝶々」は、白粉刷毛の商人の息子が垣間見た美しい白い手に惹かれ、その手の持ち主である少年とむつみあい、そしてその幸福な日々を断ち切る別れに至るまでを綴る。「夜の孔雀」は、蛇薬を販売する店の二階に住む鱗のある少年と、下宿屋にやっかいになっている気弱な少年との夜だけの逢瀬を描く。平家の落人と思しき侍とその家来三郎の逃避行を、三郎の主人に対する過剰な思慕を中心に語られる「琅カン※物語」。盲目の皇族が陰棲する里での妖かしとの幻想的な生活とそれを冒す現実との葛藤を描く「闇月夜」。「花影」は才能にあふれた若き日本画家と彼が養子として引き取られた先の実子との間にひそむ愛憎劇。廃仏毀釈の嵐の中、観音像に対して人に対する以上の恋情を抱く若き僧の異常なまでの感情が凄まじい「亡春」。
6篇とも過剰な愛の物語である。説明を廃した短い文の連なりからなる、独特の文体がその雰囲気をさらに効果的に表現している。赤江瀑の短編にも似たもので、まさに耽美という言葉がこれほど似つかわしい作品が集められている。少年愛を描けばそれで耽美というものではない。まさに作者はここでは「美」に耽っている。そのためには、具体的な描写をなるべく避け、抽象的な表現を使う。言葉というもののもつ効果を最大限に生かしたものといえるだろう。
帯には「怪奇幻想譚」とあるが、ホラーというにはあまりにももろくはかない。また、人のもつ業というには美しすぎる。作者はあえて「業」というものを避けたのではないかと私は思う。美しさの向こうに垣間見える醜さ。それをあらわにしないところに本書の特徴があるのではないだろうか。
※本来は「王干」と書き「カン」と読む漢字ですが、JISコードにないためカタカナ表記しました。
(2002年2月11日読了)