読書感想文


なつこ、孤島に囚われ。
西澤保彦著
祥伝社文庫
2000年11月10日第1刷
定価381円

 「森奈津子シリーズ」の1作目。
 異端の百合族作家、森奈津子は同業の倉阪鬼一郎、牧野修と居酒屋で会食した直後、見知らぬ女に拉致され、どこともしれぬ孤島に囚われてしまった。しかし、ワープロはある毛ガニは食べ放題という快適な環境に彼女は我を忘れて虜囚の身を楽しむ毎日。その島の向い側には同じような小さな島があり、そこから双眼鏡で彼女をのぞく男がいた。彼女もなぜか置いてあった双眼鏡でのぞき返し、手をふったり妄想をたくましくしたり。ところが、その男が遺体で発見され、警察が登場。彼女は無事救われるが、事件の真相は闇の中。友人の漫画家野間美由紀とともに推理をはじめる奈津子だが、その推理も彼女の妄想癖からとんでもないところに……。
 作家の森奈津子さんたちを実名で登場させてしまうというへたをすると楽屋落ちになりかねない異色の爆笑ミステリ。主人公の「森奈津子」のぶっとびかげんが笑いを誘う。私はご本人がどういう人かは存じ上げないのだが、ウェブ日記から受けるキャラクターの印象がそのまま投影されている。作者自身も実際のキャラクターよりは日記のキャラクターをイメージしたと語っていたが。
 しかし、そのキャラクターの面白さに惑わされてはならない。本書はちゃんとしたミステリなのである。しかも、主人公のキャラクターを借りて、性的欲求に関する考察をおりこんだなかなか鋭い問題提起がなされているのである。もっとも、本書では問題提起はなされているが、枚数の関係からか深く掘り下げるところまではいっていないが。それは第2作に期待することにしたい。

(2002年2月11日読了)


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