美作国讃甘村にすむ宮本弁之助は母と引き離された形で武芸家の父、無二斎とともに暮らしているが、父から愛情を受けたこということがない。村の分限者、村岡吉左衛門の娘、綾に一目惚れした彼は、その寝所に忍び込み、愛しあう仲となる。ただ、二人ともあまりに幼く、体の合わせ方もわからない。彼が忍んできたところを目撃した下女の通報により、吉左衛門は彼をつかまえて殺してしまうように部下たちに命ずる。綾の弟、小吉を殺してしまった彼は、血を注いで祈ると願いがかなうという言い伝えのある〈蜘蛛塚〉にたどりつき、「誰よりも強くなりたい」と願う。〈蜘蛛塚〉の主、大蜘蛛はその願いをかなえる代償に、綾の命を奪う。弁之助は武芸者、有馬喜兵衛を倒し、母のいる隣村にたどりつく。道林坊という僧に救われた彼は、母と再会する。吉左衛門の依頼で弁之助を殺そうと現れたならず者たち。その中に父の無二斎の姿もあった。父と対決せねばならぬ弁之助の前には、さらに山賊の清盛など新たな敵が続々と登場し、血塗られた人生がはじまろうとしていた。綾の命を救うためには4人の〈騎士〉を倒さなければならないと大蜘蛛に教えられた弁之助は、元服して宮本武蔵と名乗り、騎士を探す旅に出るのである。
宮本武蔵の少年時代を題材にとり、人肉を食らう山賊や悪逆非道の父親との戦いを壮絶に描く。作者の他の作品同様、野性児が運命の糸にあやつられるように戦いの場に引きずり出される。
何を題材にしても、作者の姿勢は変わらない。敵は全て残忍で、主人公は本能に導かれるように戦いの道を選ぶ。これはひとつの個性であり、どの作品を読んでもこの作者でないと味わえない雰囲気が横溢している。
反面、何を書いても結局同じようなものになってしまうという弱点も秘めている。一冊ごとに新たな驚きというものを味わうということがないのである。本書の舞台は安土・桃山時代であるから、これまでの平安時代ものとは趣が変わって当然だと思うのだが、そうはなっていない。ただ、今後の展開では史実がふんだんにとりいれられるだろうから、続刊次第では新境地を開く可能性はある。そのあたりに期待して2巻目を待ちたいところだ。
(2002年2月16日読了)