おなじみ「バカSF」を取り揃えたアンソロジー。今回は岩井志麻子、中村うさぎ、瀬名秀明といった面々が初参加。
バカバカしさでいえば、佐藤哲也「かにくい」か。周囲の状況に過剰に順応してしまう男を描いたものだが、その順応ぶりの概念の鋭さに感服。藤田雅矢「RAIN」は雨男、雨女たちを集めたプロジェクトにスカウトされる男の話。アイデア自体は目新しいものではないが、展開のさせ方がうまい。中村うさぎ「宇宙尼僧ジャクチョー」は、キャラクターや語り口はギャグを意識しているが、アイデアや展開はけっこうシリアス。みかけは「バカSF」だが、実際は切れ味のいい本格SFだ。岩井志麻子「淫らな指輪と貞淑な指」のエロティシズムは男女の性愛というものに対する鋭い考察をとんでもないアイデアで処理した秀作。「バカSF」度では本書でも一、二を争うと思う。岬兄悟「闇変身」の夜毎に変身する男というアイデアは確かに「バカSF」にふさわしいが、何かまだ照れが残っているような感じで、もっと突き抜けたバカバカしさを期待していただけに少し残念。まとまりはよいのだが。大原まり子「はぐれ天使
SM派」はタイトルだけが「バカSF」。内容は実にロマンティックなファンタジーで、SF小説誌に掲載していれば、かなり評価が高くなるだろう。SFに期待されるバカバカしさとは違うところにあるという感じがした。そして、今回の最大の問題作は、瀬名秀明「SOW狂想曲」。SF小説の新人賞選考会にて巻き起こるSF論争のすさまじさは圧巻。そして、その論争のバカバカしさも際立つ。これは、デビュー以来、2001年のSF大会にいたるまで作者が取り組み続けた「SFとはなにか」という問題に対して、作者なりに総括したものといえるかもしれない。いわば瀬名版「SFの夜」といったところか。SFとしての面白さよりもSF界をめぐる状況のバカバカしさを描くことに重点を置いている。
けっこうシリアスなSFが多いのが「SFバカ本」というアンソロジーとしては残念。やはり突き抜けた「バカバカしさ」というのはなかなか難しいのだろうなという気がする。
(2002年2月20日読了)