鳳凰族の少女、里灯は、人間を祖父にもっているために純粋な鳳凰族としての仕事を与えられず、悔しい思いを抱いている。彼女に与えられた役割は、人間界で火山を司る同族との連絡係。鳳凰族の長である朱雀公主の冠が何者かによって盗まれ人間界に運び去られたため、それを探索する役目が里灯に任せられる。しかし、人間界のことについて全く何も知らない彼女は、どこを探していいかわからない。友人である雷族の紫紗の紹介で、麒麟族の青年、準銀王が彼女を助けてくれることになる。さらに、玄武族の森司も加わり、王冠探索の旅がはじまる。ところが、彼女は人間の姿でいることにストレスを感じ本性を現したがったり、感情にまかせて炎をあやつったりするので、なにかというと準銀王とけんかになってしまう。大げんかをしたため準銀王は気晴らしにどこかに出ていってしまい、里灯はそこで初めて準銀王に対して謝らなければという悔恨の情を抱くようになる。二人の関係は、そして冠の行方は……。
基本的には、精神的に成長し切っていない少女と、そんな少女に手を焼きながらもどこかきにせずにはいられない青年の恋物語。ストーリーは比較的単純で、これまでの作品のように試練に立ち向かう勇敢な少女、というパターンを破ってはいる。
面白いのは、神族である主人公が人間の世界に初めて触れて感じるカルチャーギャップの部分である。人間のようなメンタリティは持っていたとしても、生活様式や常識がまるで異なるわけであるから、ここで描かれるようなカルチャーギャップはあって当然なのである。純粋な心の主人公の目を通して、人間という生き物が作り上げてきた文化や風習そのものを見直すという、そこらあたりの描き方がうまい。
下巻では主人公たちの恋が成就するかが焦点になってくるわけだが、主人公の魅力をどこまで生かし切るかが楽しみである。
(2002年2月21日読了)