読書感想文


地を継ぐ者
ブライアン・ステイブルフォード著
嶋田洋一訳
ハヤカワ文庫SF
2001年5月31日第1刷
定価840円

 人間が不妊となる病気が世界全体に広がったが、それを救ったのは今は亡き天才科学者、コンラッド・ヘリアーであった。彼は人工受精の方法を確立し、さらにナノマシンにより疾病や負傷からすぐに治癒するという方法を完成させた。これにより、人間には不老長寿の夢が現実のものとなったのだ。その息子であるデーモン・ハートは養父たちから離れ、ストリート・ファイターを経て仮想環境デザイナーとなる。養父の一人であるサイラス・アーネットが誘拐され、彼をさばくシーンのヴァーチャル映像が公開された。テロ集団エリミネーターは同時に声明をだし、コンラッドがまだ生きていて、本当に殺さなければならないと言う。デーモンは否応なく事件に巻き込まれ、養父を救い出し、さらに真相を探るために動き出した。テーモンが探り当てた真相とは。そして、彼がとるべき道は……。
 不老不死の夢がかなおうとしている世界での倫理観など、設定やテーマはなかなか魅力的であるが、ストーリー展開があまりスムーズでないのと肝心な点を全て登場人物の問答であきらかにしてしまったりしているなどという弱点があり、いささか退屈であることは否めない。
 SFとしての面白さを追うのか、ミステリ的な展開を楽しむのか、どちらにも絞り切れていないところが一番の問題点かもしれない。そういう意味では、やや期待していたものとは違う印象が残ってしまい、残念である。
 設定自体は興味深いので、続編でどのように設定を生かした物語になるのかを待つべきかもしれない。

(2002年2月28日読了)


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