殺し屋シモーヌ、人呼んでヴァルキリー(死神)。彼女の請け負った仕事は、滅び去ったマフィア、マンシュタイン一族の残党、ギイの取り引きするブツを奪い取ること。依頼人は、会うたびに姿の変わるリィ教授。奪い取ったブツはなんと少女。シモーヌは子どもだけは殺さない主義なのだ。少女を取り戻そうとするギイは、教授の部下でありシモーヌの愛人でもあるエマをさらう。ギイがそれほどまでして取り戻したがる少女の秘密とは。決してあいいれることのないシモーヌと教授のとった共同作戦の結果は……。
これまでの2作と同じ舞台で、脇役として登場したシモーヌの過去を描いた中編。作者の作り上げる世界の一環をなす構造になっている。とはいえ、本書だけで十分独立した物語なので、これまでの作品を読んでいなくても楽しめるようになっている。
本書を読んで感じたのは、作者の方向性がかなりはっきりしてきたということである。つまり、集団に対する個人というものの関係を同じ舞台の上でいろいろなパターンを使って描き出そうとしいるのだと感じたのである。そして、それを無理なく描き出すためにSFという世界設定が必要なのだということなのだ。
だから、流すように読んでしまうとこの舞台がSFである必要性を感じなかったりもするのだが、読み終えてふりかえってみると、SFでなければ、こういったマフィア世界などを描くのには無理があると納得させられるところがあるのである。
そういう意味では、まさに新しい世代の書き手が出てきたなあと思わずにはいられないし、今後もSFをこういった形で自然に使いこなす書き手がどんどん現れてくるのだろうという予感もするのである。
(2002年3月2日読了)