常に自己を抑圧している中年主婦、伸江は夫のためにビールを買いにいくために出かける。ピンクのワンピースに赤いハイヒールといういでたちで。餅のような形の不思議な生物コトをつれて。彼女に声をかけ悪し様にののしった男は、コトに殺されてしまう。しそて、それをきっかけに、彼女は異世界に入りこんでしまう。もとの世界に帰るためには、オズノ王に会わなければならない。ミロク、クビツリ、地蔵と道連れができた彼女は、黄色い道をたどってオズノ王のもとへ向かう。一方、現実世界では、伸江は浮浪者の「ライオン」、老人病院の入院患者「ブリキ人形」らとともに、なりゆきにまかせるように逃避行を始める。彼女が殺した男の父親とそれを支援する者たちが彼女を追いつめていく。現実世界に彼女の意識が帰ってきた時に何が起こるのか……。現実と幻想が入り交じった物語の帰結は……。
タイトルからわかるように、モチーフは「オズの魔法使い」である。ここでは主人公は内面に秘めた狂気を反映させたような異世界に入りこむ。しかも、現実世界でも同時並行で彼女は行動しているのである。ただ、意識は異世界に飛んでいるので現実世界でもその行動原理は異世界と同じである。抑圧された自己が歪んだ形で解放され、そして世界をも変容させていく。
日常というものの枠組みをずらし、人間の内面に秘めた狂気をえぐり出すという作者ならではの物語である。ここで強く感じられるのは、異世界の異様さである。異世界なのだから、異様なのはあたりまえなのだが、普通の異世界ファンタジーでは読み手にその異様さをあまり感じさせないような工夫がなされている。そうでないと、読み手は誰にも感情移入できないからだ。しかし、本書は違う。感情移入を拒否するような異世界の描写なのだ。しかも、この異世界は日常のカリカチュア的なものを感じさせる。平凡だと自分が思いこんでいる世界は、視点をずらしたらかように怪しいものなのだと、作者が突きつけてきているように感じた。
そのような異様な「日常」をまともなものにするためには、その枠組みを破壊するしかないのかもしれない。本書で作者が提示する「日常」の歪みは、現実的な問題として我々に迫ってくる。そして、小説世界を外からながめている我々は狂気に逃げこむことを許されない立場におかれているのである。
(2002年3月4日読了)