読書感想文


サブウェイ
山田正紀著
ハルキ・ホラー文庫
2002年2月18日第1刷
定価540円

 地下鉄「永田町」駅には死者がいて、心から会いたいと思う者だけがその死者に会うことができる……。2人を残してクラス全員が事故死してしまった生き残りの中学生、妻に理由不明の自殺をとげられた男、不倫相手が本妻ともども自動車事故で死んでしまった女性、地下鉄の雑踏で幼い娘を見失った夫婦、そして幼いころに母と妹を失った地下鉄運転手……。彼らが見たいと望んだ死者は、あるいは見ることのできなかった死者は、いったいなんだったのだろう。都市伝説が引き起こす怪異が描かれていく。
 地下鉄の作り出す闇には、なんともいえない無機的な冷たさがある。その闇が作り出す恐怖をえぐり出し、闇の中で死者との思い出をたどる人々の痛切な想いが浮き彫りにされる。
 ここで描かれているのは、他者の死に直面した人間の感情というもののもろさである。生前、あれほど抱いていたはずの愛情が、死をきっかけに記憶のかないうずもれていく。それを認められないもの、認められるもの、それぞれに抱く罪悪感が、地下鉄の闇というかっこうの舞台を得て克明に描かれるのである。
 地下鉄の駅が「永田町」であるということも何かを象徴しているのだろう。ただ、国会がある場所程度の認識しかない私には、それが象徴するものを実感できず、残念であった。
 とはいえ、ここに描かれる闇の深さにはなんともいえない底のない無限に続く恐ろしさがある。「死」という人間がその原初から抱いていた恐怖をもののみごとに描き出しているのだ。

(2002年3月21日読了)


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