終戦直後から1997年までの間に、社会的に話題となった自殺事件を90件とりあげ、そこで亡くなった118人の人物の自殺に至る経緯や時代背景などをまとめたもの。ルポという感じで簡潔に記されたそれぞれの事件は、しかし行間にさまざまな思いがこめられている。
美談となったもの、その死が社会を変えたもの、社会を変えようとして死にながら共感を得られなかったもの……。それぞれの死は全てにそれなりの理由を持っている。しかし、著者はその真相をこうだと決めつけようとはしていない。なぜなら、その真実は死者にしかわからないものだからだ。
死という誰もが避けられないものを、自分自身で招き寄せる心理。そこにあるものはいったいなんなのであろうか。生きるということの重みを、本書はその淡々としたタッチゆえに、強く読み手に伝える。そして、死者に先立たれて生き残った者のなすべきことを示唆する。
自殺してまで守らなければならなかったものはなにか。家族か、プライドか、上司か。彼らは何のために死ななければならなかったのか。そして、我々は何のために生き延びているのか。
著者の死者に対するまなざしは時には暖かく、時には厳しい。そしてなによりも、死者を犠牲にして生き残った者への怒りは、何気なく書かれているだけにかえって強烈である。
(2002年3月29日読了)