2002年度から実行される新学習指導要領の目玉は、「総合的な学習」という科目・領域が設定されることである。しかし、その原点となった「ゆとり教育」が実施された結果、子どもたちの学力低下が問題となっている。本書は、そのような問題をアンケート調査の結果などをもとにして検証し、批判するものである。
本書で著者は「ゆとり教育」あるいは「子ども中心教育」という理想が受験至上主義による「詰め込み教育」への批判から生まれたことを文献などで提示する。そして、終戦直後、高度経済成長期、「ゆとり教育」実施後と節目となる時期に行われたアンケート調査をもとにして、それが印象だけで語られた誤りであることを主張する。
「子どもは興味を持てば自発的に学ぼうとする」という理想が実態をともなわないものだとし、カリフォルニア州で行われた教育改革の失敗の事例をとりあげ、日本もこのままでは同じ轍を踏むのだと論を展開する。
私は9年間の知的障害児教育にたずさわってきた。その経験からいうと、子どもが自発的に新たなものを獲得しようとするのは、自分に自信というものが備わってきた場合であると考える。自信は実力に変わり、一気に成長していく。そして、コンプレックスをかかえたままだとその成長はなかなか進まない。これは知的障害児であろうと健常児であろうと大きな差はないと思う。
そういう観点から読むと、本書の主張は至極妥当だと思われる。「読む」「話す」「書く」「数える」といったことの基本が備わらないのに、応用がきくとはどうしても思えないのである。
ただ、社会の多様化やニーズの細分化などで、旧来の教育方法では対応し切れない部分もあることは確かだろう。本書が指摘するように、基礎を学習させるということは重要であると思う。そして、教師の力量に負うところの多い「総合的な学習」という科目の持つ危うさは、学校生活の全てが学習であるという養護学校で、担任次第で子どもの成長の度合いが変わってくるという実態を経験している私には実感としてわかるのである。
「理想」は美しい。しかし、現実の分析という過程を省いて理想のみを追い求めることの危険性を指摘した本書は、新学習指導要領に対して有効な批判を展開しているのではないだろうか。
(2002年3月30日読了)