初版第1刷が35年前であるから、高度経済成長期のただなかに書かれた哲学入門書である。しかし、哲学という学問の性格からいって、そのために時代遅れになっているということはないだろう。なぜならば、哲学とは人の生き方の真理を読みとこうという学問であるから、そこに時代性などの変動的な要素があってはならないのである。あくまで、根源的かつ普遍性を持ったものでなければならない。
本書は哲学史をたどるという方法はとられてはいない。哲学を実際にやっていこうという若者に対するガイドブック的な性格を持つものなのである。生きるということの意味を考える際に、どういうことを念頭に置くべきかを示したものなのである。
哲学は対話であり弁論術ではないということや、人間には自己という内面的な世界と超自我という外界との対立を通して自分というものに向き合うということなどが導入として説明される。そこから、科学という合理的なものと魔術という非合理的なものが表裏一体の関係にあることや、美や情念は本来哲学とは対照的なところにあるものだということなどを説明して哲学というものの本質をあぶり出していこうとする。歴史、制度、宗教と哲学の関係を明らかにし、哲学的に考える時には絶対的なものや超越的なものを思考しないわけにはいかないことを明らかにする。さらに、自然を感情的に受け止めて、それを分析することのない日本的な感性が日本に哲学を発生させなかったと論じ、それを自覚した上で日本独自の哲学を模索しようと試みている。
文章が読みにくく、内容がわかりにくい。哲学書というのはたいていはそういうものだとは思うのだが、それにしても入門書としては内容の難しさはともかく、文章はせめてもう少し平易なものであってほしいというのが私の感想である。書きたいことは漠然とわかり、つまり上に記したようなことが書かれていると理解したつもりなのであるが。
つまり、哲学というものは入門するにしてもこれだけわかりにくくややこしいものなのだよ、と入り口で示してくれているとつい逆説的に考えてしまうのである。それとも単に私に理解力がないということだけなのか。それだと辛いのであるが。
(2002年4月3日読了)