読書感想文


哲学の道場
中島義道著
ちくま新書
1998年6月20日第1刷
定価660円

 目次を見れば一目瞭然。「哲学はやさしくない」「哲学にはセンスが必要である」「哲学には暇が必要である」「哲学には師と仲間が必要である」「哲学には修行が必要である」「哲学は役に立たない」……。本気で哲学するにはかなりの勇気が必要なんだよ、と著者は説くのである。哲学者になろうと思ったら、死ぬまで真理を追究し続けなくてはならないのだよ、とさとすのである。そして、本書を読んでそれでも哲学しようと思うのなら本なんか読まずに道場に入り、とても哲学できないと思ったらさっぱりとあきらめなさいと示してくれるのである。
 なんとすばらしい入門書だろう。上記の目次の「哲学」を「SF」と読み替えた場合、私には著者の気持ちが十分にわかるのである。つまり、センスのない人にはどうしたって理解できないのだ、そして、たいていの人にはそのセンスがないのだとはっきりと書いてくれている。こういう「入門書」が書けるという著者の表現力に脱帽するのである。
 「死」というものを恐れる心があり、そのために「生」というものについて考え、つきつめていくと「自己」というものについて考えることになる、それが哲学なのだと著者は説く。そして、その問いに対して完全な答えはないともいう。それでも考えずにいられないのが「哲学者」というものなのだというわけである。それについて共感できる人にこそ哲学のセンスがあり、それは深く辛い行為なので時間がかかり、一人だけではやってられないので同じセンスを持った仲間がいり、精緻な論考が必要なので難解なのはあたりまえなのであり、そのためには修行がいる。そんなことに一生を費やしたからといって何の得にもならないのだ、というわけである。
 どうやら私には哲学のセンスがないらしいことが本書を読んでわかった。わかったけれども、そこから逃げるわけにはいかない。ただ、哲学のキモともいうべきものを著者が示してくれた、それを頼りに哲学について今後もいろいろと考えてみたい。
 本書は「哲学」というものについて達意の文章でその要点をずばりと示すみごとな「入門書」である。こういう哲学者がいてくれること自体奇跡に近いのではないかという気がしてならない。

(2002年4月4日読了)


目次に戻る

ホームページに戻る