本書は、自分の体というものを意識しながら生活することの大切さをわかり安く説いたものである。自分の体を意識するとはどういうことか。それは立っている時や座っている時の重心の位置を意識すること、呼吸の方法を意識すること、言葉を出す時にその響きやリズムを意識すること、まわりの空間や使用する道具などを体の一部として意識すること……。
著者は日本人が伝統的に持っていた腰やハラへの力の入れ具合を紹介し、そこに我々か失った「型」を見い出す。そして、戦後1960年代まで受け継がれてきた身体感覚の伝統が失われようとしていることに危惧をいだく。物事を考えるに際しても、身体感覚は重要であると指摘し、体が作っていく個人対個人の関係性、個人対社会の関係性に着目をする。
私は体を動かすことが苦手である。したがって、本書で書かれていることを意識的に実行しようとすると、かなりきつい部分もあることは確かである。ただ、例示されていた中で、子どものころから相撲に親しんでいたおかげでそんきょや四股の正しい形はある程度真似てきた経験があり、また中学生のころに禅寺で教えてもらった結跏趺坐もできる。そういったものをやってみると、著者のいわんとするところがおぼろげながらわかってくる。
人間の五感は体がなくては成立しない。そして、その感覚を鍛えるためには、正しい型を身につける、あるいは自分の癖を技にまで昇華させることが必要になってくる。一朝一夕に身につけられるもではないが、こういった考え方を頭に入れておけば、今後体を動かしていく時にかなり参考になりそうである。
(2002年4月6日読了)