大学教授の失踪をめぐって、同じ大学の倫理学の教授がその教え子である刑事や雑誌記者と道徳や民主主義について語り合いながら事件を解明していくという筋立て。プラトンの「対話篇」にならっての試みであろう。
ここでは理性とはなにか、不倫とはどういう行為か、功利主義の功罪、民主主義と〈力の意志〉の関係、人権の起源と定義、〈道徳的感性〉の問題などが対話によって明らかにされていく。
倫理学の、特に道徳に関わる部分が非常にわかりやすく解き明かされていく。そういういみで著者の狙いは達成されたと見るべきであろう。哲学と違い、倫理学はまず社会と人間自身の関係を社会的規範という観点から考えていく。本書では特に社会の成り立ちと個人の関係というものを中心に解説している。
哲学的な観点とはまた違う倫理学的な「自己」のとらえ方を知るためには、本書はうってつけの入門書といえるだろう。倫理学を深めるにはいくぶん物足りないけれど、それは本書の性格からいうと望み過ぎだろう。あくまで入門書としてわかりやすいというところに本書の価値はあるのだ。
(2002年4月9日読了)