読書感想文


新書イスラームの世界史1
都市の文明イスラーム
佐藤次高+鈴木董編
講談社現代新書
1993年9月20日第1刷
定価631円

 イスラーム教はどのように起こり、広まり、そして大帝国にまで発展していったのか。その歴史をたどるシリーズの1冊目。
 本書はムハンマドがアッラーの啓示を受けるに至った経緯から、正統カリフ時代、ウマイヤ朝を経てアッバース朝の成立とイスラーム王朝の分裂、小国乱立までを解説していく。
 ここでわかるのは、イスラームが商業都市から発生したために文物や人間が自由に都市を行き来し、いろいろな文明が融合し、その集大成としてイスラーム文明が成立したということである。支配者はアラブ人、ペルシャ人、そしてトルコ人と変遷し、血統を重んじる王朝や能力を重んじる王朝など様々な形態はあっても、コーランとイスラーム法という土台があったことでその文明が広がっていった様子がわかりやすく解き明かされている。
 なによりも、当時の野蛮国ヨーロッパに対して、イスラームは法や官僚制度、教育機構などが整備された先進国であったこと、イスラームが文明を発展させなければのちのヨーロッパ近代文明は成立し得なかったことが明確にされていることを再確認させてくれることに本書の意義はある。そして、現代の欧米諸国がイスラーム諸国を恐れる根本的な原因がここにあるのだと実感させてくれるのである。西洋史に重点をおきやすい日本だけに、こうやってイスラームの歴史が簡潔にまとめられていることを感謝せねばなるまい。

(2002年4月13日読了)


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