上方落語界の至宝、桂米朝の初めての自伝である。これまで、落語全集をはじめ落語についての著書は多いが、自伝はこれが初めてであるということに驚いた。
落語に興味を持ったいきさつ、入門の経緯、上方落語を滅ぼしてはいけないという使命感、交遊、弟子の死などが書かれている。原型は新聞連載で、大幅な加筆訂正がなされている。だからだろう、自伝でありながらエッセイ集のような印象を与えるのは。
本書を読むと、著者の半生がそのまま上方落語史になっていることがわかるだろう。もちろん、例えば著者の交遊関係は落語の世界、芸人の世界にとどまらず、各界の第一人者に広がってはいるから、そういったクロスオーバーした部分では必ずしも落語史そのものということにはならないのだが。
それでも、本書から終戦直後の上方落語の危機や、それを乗り越えてきた「上方落語四天王」を中心とする落語家たちの姿を読み取ることができ、それは貴重な証言として残っていくことになるだろう。
だから、本書は演芸ファン必読の書である。特に枝雀の死について触れたところなどは胸がつまりそうな思いがした。
ところで、本書のタイトルだけはなんとかならなかっただろうか。桂文楽「あばらかべっそん」、古今亭志ん生「なめくじ長屋」、三遊亭圓生「寄席育ち」のようにその芸風をしのばせるようなタイトルをつけてほしかった。ただし、米朝師匠の場合、「私の履歴書」という少し固めのタイトルがあっているという気もしてはいるのだが。
(2002年4月27日読了)