読書感想文


大唐風雲記 洛陽の少女
田村登正著
メディアワークス電撃文庫
2002年2月25日第1刷
定価510円

 第8回電撃ゲーム小説大賞受賞作。
 玄宗皇帝治世下の唐の都長安が舞台。安禄山の叛乱で騒然とする都に、怪しい光が発生する事件がおきた。方士の欧陽老師とその弟子履児は怪光を追う。その光は十数年前になくなった武則天の霊で、叛乱軍が洛陽を襲ったときに殺された少女の姿に宿って彼らの前に現れる。彼女の願いは玄宗皇帝に会いこれ以上人殺しが行われるのを阻止すること。李白の助けなどで宮中にはいった彼らは時空を越える力を持った「龍導盤」を皇帝から借り受け、援軍を他の時代から送って叛乱軍の侵入を阻止すること。力自慢の女丈夫、楊貴妃も加わり、彼らは一路最前線へ。武則天の願いは達成されるのか……。
 作者は新人とはいえ、かなりの年輩の様子。しかし、ヤングアダルト小説のツボはそれなりにおさえている。それだけでなく、武則天や楊貴妃などの描き方も通説とは違う解釈を打ち出すなど、時代小説としてもかなり本格的なものを志向しているという感じがする。だから、「龍導盤」というタイムマシンの扱いなどがぞんざいであることに対して私はいささかいら立ちを感じたりするのだ。あるいは武則天がよみがえる理由など、もっともっともらしく書いてほしいと思うのだ。
 本格的な時代小説を目指しているのであれば、ヤングアダルト小説でのデビューはかえって不利であるだろうし、中華ファンタジー小説を目指しているのであれば、ファンタスティックな部分のディティールをもっと書きこまなければ今後続けていくのは難しいだろう。
 本書を20代前半の書き手がものしたというならば、将来に対する期待はできるのだが、そこそこの年輩の人が書いたというところで、かなり高い完成度を要求してしまう。そういう意味ではこの作者に対してはまだこの1冊だけでは判断するのは難しいということだ。あと数作読んでみて、作者の志向するものがもっとはっきりとしてくるのを待ちたいと思う。

(2002年5月3日読了)


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