世界幻想文学大賞受賞作。
唐の時代、庫福という村で、子どもたちが一斉に病にかかった。村の少年十牛は北京へ行き李高老師を連れて帰り、子どもたちの病を治してもらおうとする。李高の見立てでは、子どもたちは毒を塗られた桑の葉をしがんだために病にかかったという。毒を仕入れた質屋からその毒について聞き出した李高は、これが幻の薬草、大力参でしか治らないことを知る。その大力参を所持しているのは、隋の再建を夢見る老后、皇祖娘子。李高と十牛は皇祖娘子の屋敷に侵入するがつかまってしまう。大力参の足が、手が、頭は見つかるが、いずれも子どもたちを治すことはできない。大力参の心臓が必要なのだ。それを持っているのは1000年の命を長らえる秦王のみ。そして、十牛たちの行く手には伝説の鳥姫を裏切ってしまった女中の幽霊が……。大力参に秘められた鳥姫の伝説とは……。十牛と李高はぶじに大力参を手に入れることができるのだろうか。
アメリカ人作家による中華ファンタジー。私は日本人作家によるものとの比較をしながら読んでいた。最近の日本人作家による中華ファンタジーの傾向は、明らかに「封神演義」と武侠小説の影響下にあり、道教の神や神仙が人間と交わる物語が主流である。
しかし、本書は普通の人間が宝物を探していく中で神仙の伝説の謎を解いていくという構成になっている。他のアメリカ人作家による中華ファンタジーを読まないと全体の傾向はわからないが、ここらあたりに現在の中国に対する関心の違いが現れていて面白い。
本書では例えばオリエンタル趣味みたいなものの香りはなく、あくまでファンタジーの素材として中国の伝説をとりあげているというところに好感が持てる。ただ、唐の時代になぜ北京に老師を探しに行くのか、唐の皇帝がいるのに秦王が徴税をしてまわっているなど、いくらファンタジーといってもちょっと首をかしげる部分はないではない。
本書は三部作の第1冊ということなので、今後の翻訳を注目したいところである。
(2002年5月5日読了)