読書感想文


クラシックCD名盤バトル
許光俊VS鈴木淳史著
洋泉社新書y
2002年5月23日第1刷
定価880円

 クラシックを偏愛する名うての論客2名が、名曲とされるクラシックのCDについて、それぞれが推薦盤を紹介する。と書くと、クラシックCDのガイド本のようだが、本書はそうではない。輸入盤やら海賊盤やら廃盤やら入手しにくいCDを推薦している本のどこがガイドブックであろうか。
 クラシックのCDを推薦するという形で、それぞれの音楽観を表明しているというのが、本書の正体である。許氏は演奏によって音楽の形が明晰になるようなものを薦めるし、鈴木氏は名曲を通じて演奏家の本質が明らかになるようなものを薦めることが多い。つまり、クラシックの楽しみ方なんて千差万別だし、本当に好きなら海外まで出かけていって生の音楽を聴くべきだし、わけのわからん輸入盤でもとにかく買いこんでじっくりと聴き比べないとお気に入りのCDにはぶちあたらないのだよということをあの手この手で教えてくれるという、マニア向けのメッセージなのだ。
 本書で面白いのは、「バトル」という通り、相手が書いた文章を受けてそれに対抗するように書くというシステムをとっているということ。立体批評の場合、他の人の批評は知らないで書くことが多いが、本書の場合はその逆をいってさらに多様な楽しみ方を読者に提供しようとするというわけだ。
 それにしても、こんなマニアックな本を新書判で出すのは、私は賛成しかねる。クラシックに興味を持ち初めて間のない人が読んだってチンプンカンプンだろうし、よほどのクラシック通でもあまり聴いたことのない演奏家がばんばん出てくるし。これは、許氏や鈴木氏の一連の著作を愛好している読者でなければ楽しくない類の本なのである。本書を読んだクラシック初心者はさぞかし困ることだろう。お勧めのCDを買おうと思っても、ほとんど手にはいらんのだもの。そういう本を手軽に買える形で出す意味がどこにあるのか、ちょっと私にはわからない。
 もちろん、すれっからしのクラシックCDオタクにはとっても楽しい本ではあろう。私はちょっと濃すぎてげっぷが出そうな感じがしたのだけれども。

(2002年5月12日読了)


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