読書感想文


天下人史観を疑う
鈴木眞哉著
洋泉社新書y
2002年1月23日第1刷
定価720円

 日本の歴史を動かしてきた「天下人」。本書は「天下人」の定義を明らかにし、源頼朝、北条氏、足利尊氏、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康らの「天下人」としての事蹟を検証し、そして「天下人」にとらわれる歴史観に対して批判を加えようとしたものである。
 しかし、「天下人」を定義した条件の選び方は、例えば一時的にも「天下人」と当時の人たちにいわれた三好長慶を外すためにかなり恣意的になっていたりするし、それぞれの「天下人」の分析にも徹底したものを欠くように感じられた。
 織田信長が「天下人」と讃えられるのは後継者である豊臣秀吉が天下をとったからだという指摘や、徳川家康が「天下人」になれたのは幸運が重なったからで、それを歴史の必然のようにするのは江戸幕府の御用学者によって後から結果づけられたものだという指摘など、鋭い部分はあるのだが、けっこう常識的な線でまとめられているので肩透かしを食らった感じがした。
 もっとも、「プレジデント」や「ダイヤモンド」などで現代の人心掌握術を戦国武将から学ばせようなどという文章と比べると、はるかに説得力のあるものであり、真剣に「天下人」から会社経営の方法を学ぼうなどという気でいる人に読ませるのなら、本書はかなり強力なものであるとは思う。

(2002年5月18日読了)


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